2021/08/24 TUE

いいシャツと、わるいやつ。 とことんこだわった“普通のオックスフォード”。

シンプルであることは、時として複雑であること以上に難しくなる。

そう言ったのは在りし日のジョブズだが、私たちグラフペーパーのものづくりではその意味を日々実感するばかり。

すでに世にある普通の服には、どうしても嫌なところを見つけてしまう。

そんなちょっと性格のわるいディレクターの南貴之が、自分が本気で納得できるまで

試行錯誤を重ねて、たどり着いたオックスフォードシャツ 。

見るからに普通。だけど、同じ不満を感じたことがある人ならきっとしっくり来るはず。

グラフペーパー フレームワーク、不動の定番はこうして生まれた。

Photographer:Junpei Fukushi

Text:Rui Konno

ーーずっとつくり続けているシャツについて、改めて掘り下げを。一番のこだわりはやっぱり生地ですか?

南:そうだね。特にこの厚みかな。定番をつくりたいと思ってからオックスフォードの生地を探していたときに、ピンオックスだったり上質な糸を使ったものだったり、とにかくいろんな生地を見たんですよ。すごく高くつくろうと思ったらいくらでもできるんだけど、目指してるのってそういうんじゃないんだよな、って。僕はブルックスブラザーズとかラルフローレンとか、ああいうアメリカものの分厚いオックスフォードが好きだったから。だけどブルックスのはちょっとドレスっぽすぎるし、もう少し粗野で厚ぼったくて、野暮ったい生地がいいなと思ってたのね。そこで出会ったのがこの生地で。特にこのグレーっていうのが、結構珍しくて気に入ってます。

ーー元々生地屋さんにあったオックス地なんですか?

南:元々あったんだけど、同じグレーでも色味がこれとはまたちょっと違ったし、さらにそれも廃盤になっちゃってて。それで機屋さんと話して、「ウチは別注できちんとつくりたい」って言いました。これ、経糸に黒が掛かってるんですよ。で、そこに緯糸にグレーを打ってるの。そうじゃないとこの立体感のあるグレーにはならないと思う。

ーーそのレシピは南さんが考えたんですか?

南:いやいや、「グレーのオックス生地をつくりたいんです」って言ったら工場の人が「これはどうですか?」って提案してくれて。こういうオックスフォードとかの生地って、つくるとなるととんでもないロットが必要で、最初の俺たちなんて弱小だったから「そんなのつくれませんよ!」っていう感じだったの。生地ひとつつくるたびに一世一代の大勝負みたいになっちゃうから(笑)。特に、経糸を変えるのって本当に難しいんですよ。生地の反の長さに直結するから。それで、元のオックスフォード生地の縦糸には白か黒が掛かってたんだけど、「白にグレーの緯糸を合わせたら色が薄くなっちゃうけど、黒にグレーの緯糸を合わせたら南くんが言ってる色になるんじゃない?」って言われて。緯糸は割と簡単に打ち替えられるからね。本当にうまくいくのかよ……と思ってたんだけど(笑)、それでいざやってみたら「スゴいイイ色じゃん……!」みたいな。

ーー黒が強いからチャコール寄りのグレーになってるんですね。

南:そうそう。実はグラフペーパーではよくやってるんですけど、経糸と緯糸、同じ糸なんだけど濃度を少しだけ変えてくれとか。ほら、ウチの服って普通の服だからさ。やっぱり素材が大事で、生地でほとんどデザインが終わっちゃうわけ。服づくりの70%から80%はそこだね。これで言えば厚さと、色の出し方にこだわったかな。

ーーそもそもオックスフォードシャツでグレーってあんまり見ないですよね。

南:大体が白とサックスだよね。もちろんトラッドな物だとは思ってるんだけど、そのままやるなら本家があるからそっちでいいじゃんっていう話になる。その本家の何が嫌なのかを考えて、再編集してるだけだからね。

ーー失礼ですけどちょっと性格わるいですね(笑)。

南:そうだよね(笑)。着たいんだけど、「ここがこうじゃなかったら欲しいのにな……」とかっていうことがよくあるから。でも、それが消費者的な視点だと思うんですよ。だから、フレームワークの商品なんて主観しか入ってない。「お客様のために」だとか、「コンセプトがこうだから」、とかっていう考え方はそこに無いんです。俺が好きか嫌いか、それだけで、そこに共感してくれる人たちがそれを楽しんでくれればいいなって。

ーー会議室でマーケティング資料を基に「こういうものをつくろう」とかじゃないんですね。

南:うん。よくあるじゃん、マーケティング会社にリサーチを頼んだりとか、専門誌を熱心に読んでたりとか。そういうのはまったく無いです。でも、統計を採って必ずいい服ができるのかって言ったらそうじゃないから、そこがファッションは面白いよね。フレームワークはデザイナーっていうよりプロダクト的な見方でつくってる気がするけど。

ーー形とディテールについてはどんな風に固めていったんですか?

南:ボックスシルエットで、襟と袖の仕様は昔のブルックス。身幅とか前立てとかはラルフローレンから。好きなところを再編集してつくってます。カフスのピンタックの入り方とか、きっちりドレスっぽいんだけどカジュアルに着られるように意識してますね。後ろのヨークの位置が本来のラルフはもっと高いんですよ。でも、ラルフローレンのシャツを見てて、「なんでこの高さにヨークを入れるんだろう……」ってずっと思ってたんで、そこも下げて。シャツって元々インナーだから、もしかしたらそういうクラシックさが残ってたのかもしれないけど、僕は嫌なんだよね(笑)。

ーーなるほど。それにしてもデカいですね。

南:身幅も腕もかなり大きく採っていて、サイズはもともと1と2の2サイズ展開だったんだけど、僕は絶対2ばっかりが売れると思ってたの。でも実際は1ばっかりが売れちゃって。「全然伝わってねぇな……。デカく着て欲しいんだよ!」って最初はずっと思ってました。今ほどみんなが大きく着る時代じゃなかったっていうのもあるとは思うけど、それが分かってもらえなくて。だから、自分的に大きいサイズ、自分用に3ていうサイズをつくってたの。1でも2でも僕には小さいから。そしたらだんだん2が売れるようになってきて。そしたら「もっと大きくてもいいんじゃないか」ってスタッフも言い始めて、「南さんのサイズがいい」って3も売り始めて。で、最終的に今は1、2、Fっていうサイズ展開に落ち着いてます。

ーーちょっと変なサイズグレーディングですよね。

南:そうですね。1と2の先にドーンと大きいサイズがもう1個あるっていうね。それで僕は今Fサイズを着てますけど、ウチの服はもともと細くはつくってないから、細身の人が1とか2を着て、っていう感じになりました。それでも、Fが今は一番売れてるみたいです。

ーー実際世の中的にもビッグシルエットが当たり前になってきて、みんな麻痺してきましたよね。

南:そうだね。ウチの服は元々大きいから、初めは理解してもらうのが大変だったけどね。僕にとって服を大きく着るきっかけになったのが昔のコム デ ギャルソンでした。だから20代の頃は高くても無理して買ってたんだけど、おじさんが着てる方がカッコよく見えて、それから買うのをやめたんです。でもいざ普通に着られる年齢になってみたら、すごい小さく感じちゃって(笑)。多分ギャルソンのサイズグレーディングも小さくなってるんだろうなぁ。

ーーコム デ ギャルソンのサイズと言えば、表記がちょっと面白いですよね。”XS”じゃなくて”SS”とか、最近あんまり見なくなった紳士服の表記を今も踏襲していたり。

南:確かに。ギャルソンに限らず”O”とかっていうサイズも未だにたまに見かけるよね。あれどういう意味なんだろ?

ーー調べてみたら”OVER LARGE”の略みたいです。スポーツウェア向けのサイズ表記で。

南:そうなんだ。そういうところも個性出るよね。

こちらは同素材のバンドカラーのモデル。ボタンダウンと同様に、肩の傾斜がきつめになっているのがわかる。

ーーでも形で言うと大きさもそうですけど、肩の傾斜もちょっと不思議なバランスですよね、このシャツ。

南:はい。これはグラフペーパーの服全部に共通してるんだけど、肩の傾斜がキツいんですよ。痩せてる人が大きい服を普通に着ると、袖山の部分がポコッと出ちゃうんだよね。あれが僕はずっと嫌で、なで肩の人でも着られるようにしたかったの。ちなみにグラフペーパーのハンガーは、それ自体が実はちょっとなで肩になってるんだけどね。傾斜がすごいからこれでメンズの服もレディース服も掛かっちゃうの。

ーーそうだったんですね。まったく気がつきませんでした(笑)。

南:そりゃそうだよね。でも、お客さんから「このハンガー、買えないんですか?」っていうお問い合わせをもらったりもしてるみたいです(笑)。

ーーコアな方もいるんですね(笑)。他にもこだわった点はありますか?

南:あとは縫製仕様かな。カジュアルシャツなんだけど、思いっきりドレスの縫製というか、運針がめちゃくちゃ細かいんですよ。これが縫える工場ってそんなに無くて、できるところを探して、説得して何とかやってもらってます。脇の折り伏せ縫いのところにいいパッカリングが出るのは、この運針だからだね。カジュアルとドレスの中間みたいなところを狙ってます。

ーーちなみに加工自体は製品洗いですが?

南:うん。ワンウォッシュだけかけてます。

ーー南さんって、“こういう人物像に合うものを”とか、“ああいう世界観を反映させた服を”とかっていうつくり方をすることはないんですか?

南:グラフペーパーの方はそういうつくり方ですよ。だけどこっち(グラフペーパーフレームワーク)はそういう感覚ではやってない。自分がただの消費者だったときに一番嫌だったのが、あのシャツすごくいいなと思っても、次に行ったらもうそれが売ってないってことだったの。「今季はこういうテーマなんで、前季のああいうのはつくってないんですよ」とかって言われたときに、「何ィ⁉︎」と思って(笑)。「俺は今年も来年も再来年もあのシャツがいいんだよ!」って。そういう人っていないのかな? とずっと思ってたのがこのブランドを始めたきっかけでもあります。

ーーそういう経験、みんな一度くらいはある気がしますね。

南:もし自分が他社からお金を援助してもらってブランドをやってるとかだったら、いろいろ考慮しないといけないのかもしれないけど、自分で会社とブランドをやってて、うまくいくも潰れるも自分の責任でしかないってなったら、最終的に自分が好きな服をつくるしか方法は無いよね。

ーーですね。それも人の共感を呼べなかったらうまくいかないわけですしね。

南:そうだね。それに工場さんにも怒られちゃう。だから最初は土下座ばっかりだったよ(笑)。「いつか何とかしますんで……!」って。最近はそこまで深々と頭を下げなきゃいけない場面は減ったけど、やっぱり皆さんの協力があってできてるんで、そこには感謝しかないなぁ。自分が主観的に作った洋服をいいと言ってくれる人たちに対しては、「やっぱり? だよね!」って、そんな気持ちが大きいかも知れないです。


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